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名古屋家庭裁判所 昭和46年(家)209号 審判 1972年3月09日

申立人 青木春江(仮名) 昭三七・五・二六生

右法定代理人親権者母 市川和江(仮名)

相手方 青木安雄(仮名)

主文

相手方は申立人に対し扶養料として昭和四五年一二月から申立人が成年に達するまで、毎月金二万円を毎月末日かぎり(すでに期限を経過した分は、本審判確定の日の翌日かぎり)、申立人住所に送金して支払え。

理由

1  申立の要旨

申立人は、昭和三七年五月二六日相手方と上記市川和江との間の長女として出生した者である。両親は昭和四五年七月一七日協議離婚し、その際申立人の親権者を母と定め、以来申立人は市川和江によつて監護養育されている。

よつて申立人は相手方に対し扶養料の支払を求める(申立ての趣旨記載の金一万二、〇〇〇円は最低要求金額の趣旨と認める)。

昭和四五年一二月一一日調停申立。

2  当裁判所の判断

(1)  本件調査の結果、本件事実関係は、上記「申立の要旨」記載の申立人主張の事実が認められるが、そのほか以下の事実を認めることができる。

イ  申立人は九歳で小学校三年生である。母の市川和江(三六歳)ならびにその両親である祖父市川五郎(七六歳)および祖母ゆき(七四歳)の四人家族である。市川和江は株式会社日本旅行○○営業所に勤務し、月収平均九万一、四三三円位である。

同社から提出された昭和四六年分給与所得の源泉徴収票による算出例

支払金額1,183,412円-(源泉徴収税額29,400円+社会保険料56,815円) = 1,097,197円  1,097,197円/12 ≒ 91,433円

住居は借家であり、市川和江の弟から市川五郎、ゆきに対する仕送り一万円がある。

ロ  相手方は母あき(六三歳)と二人暮しである。相手方は名古屋市○○区役所○○課に勤務し、月収平均一四万六、二九四円位である。

名古屋市役所から提出された昭和四六年分給与所得の源泉徴収票による算出例

支払金額1,961,263円-(源泉徴収税額133,900円+社会保険料71,826円) = 1,755,537円 1,755,537円/12 ≒ 146,294円

住居は市営住宅に入居(家賃三、四五〇円)し、管理人を兼ねているが、これは収入にはならない。また、申立人および相手方を被保険者とする生命保険にそれぞれ加入し、保険料を毎月合計六、五〇〇円位支払つている。

ハ  昭和四五年六月二六日、当裁判所において、市川和江と相手方との間に次のような調停が成立した。

調停条項

「1 申立人(当時青木和江)と相手方(青木安雄)は同人等の長女春江(昭和三七年五月二六日生)の親権者を母申立人と定め昭和四五年六月三〇日までに協議離婚の届出をすること。

2 申立人は本件離婚に伴う養育費および慰藉料はこれを取下る。

上記調停条項二項は、市川和江から相手方に対し申立人の養育費を請求しないことを当事者間で了解して成立した。

(2)イ  以上の事実が認められるが、たとい市川和江と相手方との間に申立人の養育費を相手方に請求しないという約束があつたとしても、そのような合意は法律上有効とはいえない。したがつて、相手方および市川和江はいずれも未成年の子である申立人に対し扶養の義務を負い、それぞれ自己と同程度に申立人の生活を保持させる義務がある。そして、現在、申立人は親権者であり、かつ母である市川和江の下で養育されているので、父である相手方はこれに対し金銭をもつて義務を果すべきことになる。

以下その分担額を算出する。

相手方で申立人を引取つて養育するものと想定した場合の申立人の生活程度を算出する。なぜならば、上記のような収入、家族構成等から考えれば、母方よりも父方の生活程度が高いこと明らかだからである。なお、これは計算上の仮定の問題で、現実にそうする方がよいかどうかは別問題である。そしてこの算出方法については厚生大臣が定めた「生活保護基準」(生活保護法八条二項)に準拠するのを相当と認める。相手方は上記のとおり母あき(六三歳)と同居して扶養しているが同女は相手方がいわゆる生活保護義務を負う対象者ではない。したがつて父子二人暮しの生活を想定し現実に相手方が母を扶養している点は後に一切の事情として考慮する。

ロ  まず、申立人の上記想定家族中に占める消費量の割合を算出する。

(昭和四六年度一般生活費認定基準表一級地(名古屋)。別表参照)

申立人九歳

第一類七、七一五円

相手方三九歳

第一類九、一五〇円

7,715円+9,150円+6,540円(第2類世帯員2人)+2,800円(家賃) = 26,205円

これが相手方および申立人二人暮しの最低生活費と認める。

この内で申立人の占める消費量の割合は、

7,715円+820円(第2類で世帯員が1人増えたために加算される分)×100/26,205円 = 3.26

(小数点1位以下4捨5入)

となる。

ハ  そして申立人の上記想定家族中の生活程度を算出する。

相手方の月収は上記のとおり平均一四万六、二九四円位であるが、その職業上の必要経費を一〇%とみて、これを控除すると、金一三万一、六六四円位(円以下切捨)となる。これにロで算定した申立人の消費量の割合を掛けると、

131,664円×0.326 = 42,922円(円以下切捨)

となる。

しかしながら、上記のとおり、相手方が現在実母を扶養していること、その他申立人のために生命保険に加入している等一切の事情を考慮して、この金額から二五%程控除すると三万二、〇〇〇円となる。この金額をもつて、申立人の監護養育に要すべき費用とみるのが相当である。

ニ  この金三万二、〇〇〇円を相手方と市川和江が、それぞれ自己の資力に応じて分担すべきであるから、上記各月月収から一〇%の職業上の必要経費をそれぞれ控除した金額に比例して分担するのを相当と認める。

相手方146,294円×0.9 ≒ 131,664円(円以下切捨)

市川和江91,433円×0.9 ≒ 82,289円(円以下切捨)

相手方32,000円×(131,664円/131,664円+82,289円) ≒ 20,000円(千円未満4捨5入)

市川和江32,000円×(82,289円/131,664円+82,289円) ≒ 12,000円(千円未満4捨5入)

したがつて相手方は二万円、市川和江は一万二、〇〇〇円を毎月申立人のために負担するのを相当と認める。

(3)  以上のとおりであるから、相手方は申立人に対し扶養料として本件申立の月である昭和四五年一二月(資料は昭和四六年度分を使用したがこの点の誤差は上記一切の事情として考慮した)申立人が成年に達するまで毎月金二万円を毎月末日かぎり(すでに期限を経過した分は、本審判確定の日の翌日かぎり)、申立人住所に送金して支払うべきである。

なお、この審判はその後当事者間に事情の変更があれば、裁判所に変更の申立をなしうるものである。よつて主文のとおり審判する。

(家事審判官 大津卓也)

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